令和8年8月の言葉

或る目標となるものが百の特相あり

百の特徴を持っているときに

唯だ一つの部分のみを見る人は、愚者であり

百を見る人は賢者である

中村元訳『仏弟子の告白』

一行目の「目標」と訳されている attha は、「意味」「目的」「対象」などの意味をもつ多義語です。どの意味を上記の聖句に当てたとしても、大きな間違いは生じないでしょうが、個人的には、目の前にある「対象」と解釈すると、この句の意図が理解しやすくなるように思われます。

聖句では、一つの対象に「百の特相・特徴」があると説かれます。もちろん、ここでの「百」とは実際の数ではなく、対象が持つ多面性を象徴的に表したものです。実際、我々を取り巻く物事も、一つの面だけで成り立っていることの方がまれでしょう。しかし、人は自分の見たい部分だけを見て判断してしまいがちです。聖句では、このような一面的理解にとどまる者を「愚者」と断じ、多様な側面を見ようと努める者を「賢者」と呼んでいます。

仏教には「如実知見」という言葉があります。文字どおり「ありのままに見る」という意味ですが、それは決して容易なことではありません。私たちは経験や先入観にとらわれて偏った見方をしてしまいがちだからです。

こうした偏った見方が現実とその認識の間に齟齬を生み、苦しみや迷いの原因となります。だからこそ、仏教ではありのままに現実を見ようとする姿勢を重んじてきました。この聖句は、物事の多面性を理解しようとする姿勢こそが、正しい認識への第一歩であることを示しているのでしょう。