令和7年3月の言葉

慈しみと平静とあわれみと 

解脱と喜びを時に応じて修め 

世間すべてに背くことなく 

犀の角のようにただ独り歩め

中村元訳『ブッダのことば』

今月は『スッタニパータ』「蛇の章」の「犀の角」から聖句を選びました。 

最後の句の「犀(さい)の角のようにただ独り歩め」は比較的知られている表現であることから、ご存知の方もおられるかもしれません。この句は、犀の角が一本しかないように、仏教の修行者(僧侶)は世の中の賛否に囚われることなく独り修行に励むべきことを意味します。これは第三者と関わることにより、修行者自身の自由が奪われる弊害を意識したものと考えられています。 

聖句に立ち戻ってみると、適切な時に必要な修行を実践すべきことが説かれていますが、独り修行に励む際に、完全に世間と断絶するわけではないことが注目されます。 

仏教では、究極的に人は孤独であるという認識も持ち合わせていますが、人間は独りでは生きていけないと理解もしているので、良き友人と交流することが説かれます。たとえば 「学識ゆたかで真理をわきまえ、高邁・明敏な友と交われ」といった具合です。 

人は他者との関係に悩まされるにも拘わらず、一人では生きていけない。「独り歩み」ながらも、友人を選び、社会と適切な距離感を意識して、心穏やかに過ごすことを目指さないといけないのです。矛盾するような話ですが、これが現実社会と向き合った結果と言えるのではないでしょうか。