令和6年12月の言葉

怒らないことによって怒りにうち勝て

善いことによって悪いことにうち勝て

わかち合うことによって物惜しみにうち勝て

真実によって虚言の人にうち勝て

中村元訳『ブッダの真理のことば 感興のことば』

仏教では、時代を経ていくにつれて、教えが整備されていきます。その中の一つに「三毒」(さんどく)というものがあります。これは、人間が根源的にそなえている三つの煩悩(身心をわずらわせるもの)のことをいいます。すなわち(1)「貪(とん)」が貪り、(2)「瞋(じん)」が憎しみや怒り、(3)「痴(ち)」が真理・道理が分からないこと、と説明されます。

あらためて上記の教えに立ち戻ってみると、1句目が「瞋」について、4句目が「痴」について説かれていると考えて差し支えないでしょう。そして3句目の物惜しみは、「貪」と関係していると見ることができます。三毒との順番こそ異なりますが、全てに言及されていると見なせます。そしてさらに悪いこと(不善)にも触れているわけです。

これまでにも何度か、仏教では我々人間を煩悩にとらわれる存在とみなすことを紹介してきました。普段自分の心について何も意識せず、その制御を怠っていると、心は三毒などの煩悩に侵食されていくとされます。その一方で、心を制御しようと自制・実践することにより、煩悩を生じさせず、心乱れない状態を作り出せるとします。すなわち、心穏やかな状態がもたらされるのです。上記の教えは、三毒などへの対処を分かりやすい表現で示してくれている点で重要だと考えます。